相続税対策を目的とした土地活用の一つに、所有する土地を他者へ一定期間貸し出す「定期借地」という手法があります。
個人だけでなく、都市部やロードサイドビジネスに向いている土地であれば法人に土地を貸して、収益を得ることも可能でしょう。
こうした法人限定で貸し出す土地のことを「事業用定期借地」といいます。
ここでは事業用定期借地について、オーナー側のメリットや注意点などを中心に解説していきます。
相続を視野に入れた事業用定期借地という土地活用方法
事業用定期借地の代表例といえば、コンビニエンスストアやガソリンスタンド、飲食店、大型ショッピングセンターなどのロードサイドビジネスが挙げられます。
コンビニエンスストアのように店舗面積は小さくても、駐車場を含めれば数百坪もの広さが必要です。
こうした土地で、長期間使わないことが決まっているのであれば、事業用定期借地として土地活用するのがおすすめです。
貸出期間は10年以上50年未満で、借主との契約時には「10年以上30年未満」か「30年以上50年未満」のいずれかを選びます。
「30年以上50年未満」の場合には、契約の更新も認められます。
借主は、土地の上に事業用の建物を建てるなど契約内容や法律にもとづいて自由に使えますが、契約が満了すると建物を解体し、原状回復したうえで返還することになります。
借地権には、事業用定期借地権のほかにも「普通借地権」「一般定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」などの種類があります。
今回紹介する事業用定期借地は、居住用ではなく事業用に限定して土地を貸す権利です。
なお、借主が建てた建物などを貸主が買い取りたい場合には「建物譲渡特約付借地権」で締結するという方法もあります。
事業用定期借地のメリット
土地活用や相続の観点から、事業用定期借地は、オーナーにどんなメリットをもたらすのでしょうか。
以下に、事業用定期借地のメリットを列挙します。
事業リスクが低い
事業用定期借地で貸し出される土地(更地)は、基本的には何も手を加えずに貸し出すので、初期投資費用がかからないことがメリットの一つです。
その土地に建物を建てるのは借主ですから、建築費は不要。
また、その土地や建物で事業を行うのも借主で、運転資金(ランニングコスト)もほぼ不要です。
定期的に安定した収入が得られる
長期にわたって、借主から地代を得られることもメリットでしょう。
とりわけ事業用定期借地は、借主が法人ですから、個人に貸し出すよりも地代を高く設定できます。
年間収入は、土地代の3~6%というところが多いようです。
居住用に向かない立地でも収益化が期待できる
事業用定期借地は、最寄駅から遠く離れ居住用としては適さない土地であることが大半です。
一方で、ロードサイドビジネスとしては適している場合もあります。
そうした土地は評価も高いことが多く、これも地代を高めに設定できる理由でもあります。
定期借地権の残存期間に応じて相続評価額が減額される
他者に土地を貸し出す「貸宅地」は、自分で所有するより相続税の評価が低くなります。
評価が低くなれば、相続税も軽減されますので、相続税対策にも有効な手法です。
なお、相続税評価額は残りの貸出期間(残存期間)によって変わります。
詳しくは、後ほど説明いたします。
事業用定期借地のデメリット
事業用定期借地は、メリットもあればデメリットもあります。
いくつか紹介しましょう。
途中解約ができない
事業用定期借地権は、借主との話し合いで残存期間が決まります。
その期間の途中で、解約することはできません。
まとまったお金が欲しくても売却したいという場合でも、契約期間内であれば不可能ですから、売却を視野に入れた土地活用を検討されている方には適さない方法でしょう。
構築物の有無に限らず、土地の固定資産税に減税はない
土地の所有者である貸主に対しては、毎年固定資産税がかかります。
固定資産税は、居住用の建物がある土地に対しては、3分の1から6分の1に減税される特例がありますが、事業用定期借地には、この特例が適用されません。
居住用の建物を解体して事業用定期借地にする場合は、土地の固定資産税が大幅にアップするおそれがあります。
事業者(借主)の破綻リスク
残存期間中に、借主の事業が破綻した場合、地代が入ってこなくなる可能性があります。
夜逃げ同然に借主と連絡が取れなくなるケースもありますし、連絡が取れるにしても破綻した事業者に原状回復費を負担させることは困難でしょう。
建物の解体などにかかる費用をオーナーが負担するといったリスクもあるのです。
破綻前には地代の滞納などの予兆があるでしょうから、それが現れたら原状回復に関する話し合いをするなどの対処をしておくことも大切です。
事業用定期借地は相続税対策になる?
事業用定期借地も、相続の対象になりますので、相続人には相応の相続税がかかります。
ただし、事業用定期借地として他者に貸し出した土地は、オーナーは自由に利用や売却ができないため、相続税評価額を減らせます。
定期借地では、残存期間(残りの貸出期間)の年数によって減額できる割合が変わり、契約満了日が近くなるほど減額の割合は減っていきます。
以下が、残存期間と減額の割合です。
- 15年を超える場合:20%減
- 10年超~15年以下:15%減
- 5年超~10年以下:10%減
- 5年以下:5%減
定期借地の契約期間が長い(30年以上50年未満)ほど、相続税を抑えられる可能性が高くなるといえます。
なお、相続税対策だけの観点でいえば、土地が返還されない可能性がある「普通借地」のほうが減額割合は高くなります。
事業用定期借地で失敗しないためのポイント
相続を前提に、事業用定期借地の土地活用方法を選ぶのであれば、あとで借主とトラブルにならないよう、契約時には十分に注意する必要があります。
事業用定期借地は公正証書で契約することが決まっていますが、その前に書面で「覚書」を作成することで、トラブルを未然に防ぐこともできます。
改めて、事業用定期借地で土地を貸す際の注意点と、相続時に困らないよう契約時にできる対策について紹介しましょう。
事業用定期借地の契約は公正証書で契約する
事業用定期借地の契約では、公証役場が作成する公正証書で取り交わす必要があります。
もし、公正証書ではない書面で契約した場合、事業用定期借地権は無効となり、普通借地など他の借地権として取り扱われたり、満了後に返還してもらえなかったりする場合もあります。
必ず、公正証書で契約しましょう。
公正証書とは別に作成する覚書をしっかりチェック
公正証書を作成する際には、土地の造成や各種許認可など準備することが多々あります。
その際、細かな取り決めについて「覚書」を作成するのが一般的です。
この覚書の内容が、非常に重要な書面です。
例えば、事業用定期借地の上に借主が大型ショッピングモールを建てるとします。
その際、覚書に記載されている内容と事業用定期借地の契約に不一致な点があると、借主は契約を拒むこともあるでしょう。
それだけならともかく、借主は大型プロジェクトを頓挫させたとして、貸主に多額の損害賠償請求をする可能性もあります。
一般的に、覚書を締結した後で定期借地契約を拒むのは難しいので、覚書を作成したら事業用定期借地の契約内容と相違がないか、しっかり確認しましょう。
法律で定められた条件を満たす
契約も重要ですが、法律に反する条件が事業用定期借地の契約にあれば、その契約は無効になりますので注意しましょう。
例えば、社宅やグループホームを事業用定期借地に建てることは、認められません。
事業で必要であっても、事業用定期借地は「居住用以外の建物」しか建てられませんので、違法になります。
場合によっては普通借地扱いになることもありますので、借主の事業内容をしっかり確認しましょう。
契約満了時にきちんと土地を返してくれる契約内容にする
事業用定期借地権は、契約が満了したら原状回復(建物を取り壊して更地にした状態)で返還するのが原則です。
その返還方法についても、貸主と借主とあいだに相違が出ないよう条項を設けておいたほうがよいでしょう。
例えば「アスファルトも除去し、土盛りの状態にする」など、細かな規定を文書で設けておくと、原状回復の認識に差が生じにくくなりますし、その後の土地活用もしやすいでしょう。
また、事業用定期借地権の存続期間は、貸主と借主の合意があれば延長することも可能です。
実際にその契約を締結するのは、子や孫の世代である相続人に任せることになるでしょうが、例えば「返還してほしくてもできない」などのトラブルを防ぐうえでも、覚書の段階では更新なし(期間延長なし)にしておくと安心です。
まとめ
相続対策の土地活用として、事業用定期借地も一つの手段です。
居住用と比べると利用者が限られるという面もありますが、居住用としては適さない土地であれば、一つの選択肢になるでしょう。
相続の点でも、自分で所有するよりも相続税評価額が下がるため、相続人が支払う税額が抑えられるというメリットも魅力です。
一方で、契約内容がより難しい手法でもあります。
後年、相続人がトラブルに巻き込まれるといったことを防ぐためにも、専門家の意見を仰ぎながらしっかり進めることが大切です。
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