リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019 総合グランプリ決定|株式会社大城「鹿児島断熱賃貸〜エコリノベ実証実験プロジェクト〜」
一般社団法人リノベーション協議会(東京都渋谷区・理事長:山本卓也)は、2019年を代表する魅力的なリノベーション事例を選ぶコンテスト「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」(選考委員長:リノベーション協議会 発起人 島原万丈)の授賞式および選考委員による講評会を12月12日(木)に伊藤国際学術センター(東京大学本郷キャンパス内)にて開催し、総合グランプリ、部門別最優秀作品賞、特別賞を発表いたしました。
本コンテストでは、消費者にとって関心の高い施工費別に「500万円未満部門」「1000万円未満部門」「1000万円以上部門」「無差別級部門」の4部門を設けています。
部門ごとに全国からエントリーされた計279作品を、リノベーションの楽しさ・魅力・可能性という点にフォーカスしてSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を活用した一般ユーザーの声を取り入れ一次審査をし、60作品をノミネート選出。
その後、最終審査において、住宅系を中心としたメディアの編集者9名で構成された選考委員によって、総合グランプリ、部門別最優秀作品賞4点、特別賞13点を決定。
12月12日(木)に授賞式・講評会を開催いたしました。
ウェブサイト:https://www.renovation.or.jp/oftheyear/
昨年のリノベーション・オブ・ザ・イヤー関連の記事:
【受賞作品一覧】
□総合グランプリ
『鹿児島断熱賃貸〜エコリノベ実証実験プロジェクト〜』
株式会社大城
https://www.renovation.or.jp/app/oftheyear/2019/572
<500万円未満部門>最優秀作品賞
『我が家の遊び場、地下に根ざす』
株式会社ブルースタジオ
https://www.renovation.or.jp/app/oftheyear/2019/535
<1000万円未満部門>最優秀作品賞
『my dot. - 東京の中心で風呂に住む-』
株式会社リビタ
https://www.renovation.or.jp/app/oftheyear/2019/550
<1000万円以上部門>最優秀作品賞
『5世代に渡り受け継がれる、築100年の古民家』
株式会社アトリエいろは一級建築士事務所
https://www.renovation.or.jp/app/oftheyear/2019/729
<無差別級部門>最優秀作品賞
『古くなった建物に、新築以上の価値を。~戸建性能向上リノベ実証PJ』
YKK AP株式会社
https://www.renovation.or.jp/app/oftheyear/2019/568
<特別賞>
□地域風景デザイン賞
『二軒長屋のブロック造の家』
株式会社スロウル
□地域資源リノベーション賞
『おおすみの人と自然が先生です。『ユクサおおすみ海の学校』』
株式会社プラスディー設計室
□エリアリノベーション賞
継なぐまちの記憶『アメリカヤ横丁』』
株式会社アトリエいろは一級建築士事務所
□事業継承リノベーション賞
『郊外大家さんは農と緑でバトンタッチ』
株式会社ブルースタジオ
□拠点創出リノベーション賞
『ちょっとソコまで、SOKOまで。』
株式会社See Visions
□和室リノベーション賞
『SHOGUN Castle』
有限会社ひまわり
□R1デザイン賞
『荒廃と品格』
株式会社モリタ装芸
□R1ペット共生リノベーション賞
『イヌはイエ。ヒトはケージ。』
株式会社ニューユニークス
□ベストデザイン賞
『浮かぶガラスの茶室がある大阪長屋』
9株式会社
□性能向上リノベーション賞
『最小限の予算で ★耐震適合★2世帯住宅』
株式会社まごころ本舗
□性能向上リノベーション賞
『再生匠家 -性能向上・自然素材リノベーションモデルハウス-』
株式会社WOODYYLIFE
□R5性能向上リノベーション賞
『未来へつなぐ価値と暮らし-HOWS Renovation八雲の家』
株式会社リビタ
□お役立ちツール賞
『一冊のノートで見つける「自分らしい住まい方」 ~ユメノート~』
リノベる株式会社
選考委員長講評
選考委員長
島原 万丈 /株式会社LIFULL
LIFULL HOME'S総研 所長
何がエポックメイキングなのか。それは、日本のリノベーション住宅に性能向上の時代が到来したことを強く印象づけたことだ。リノベーション・オブ・ザ・イヤーでは、2013年のスタート当初から耐震補強や断熱改修などの性能向上が施された作品は継続的に出現してはいたものの、今年はその量と質が飛躍的に高まった感が強い。今回一次審査を通過した60のノミネート作品を対象にした最終審査会において、断熱性や耐震性の性能向上をアピールする作品がすべてのカテゴリーで部門最優秀賞を争ったのである。
そのようなリノベーション・オブ・ザ・イヤー2019で見事総合グランプリを勝ち取ったのは、「鹿児島断熱賃貸〜エコリノベ実証実験プロジェクト〜」(株式会社大城)である。無差別級部門最優秀作品賞に輝いた「戸建性能向上リノベ実証PJ」(YKK AP株式会社)と競っての栄誉となった。いずれも新築基準を遥かに超えるレベルの性能を実現しつつ、住宅市場への幅広い波及効果が期待される作品である。
YKK APは2017年にも株式会社リビタと組んで性能向上をした作品で最優秀部門賞を受賞しているが、今回は大手設備メーカーの強みを活かし、北海道から九州まで全国5箇所で各地の事業者と協働した5作品をいっきにリリースした。いずれも築35年超(中には築100年も!)の旧耐震木造戸建住宅を耐震等級3、HEAT20のG2グレードと、新築をはるかに上回る性能へと引き上げた高性能リノベーション住宅である。それらを実際に販売する商品としてまとめつつも、見学会の実施によって各地の事業者への啓蒙と技術やノウハウの共有を図った点も高い評価を得た。
500万円未満部門から初のグランプリ授賞となった「鹿児島断熱賃貸〜エコリノベ実証実験プロジェクト〜」も断熱改修によってHEAT20のG2グレードを達成した作品である。温暖な鹿児島では高い断熱性能など必要ないという誤った通念をファクトで否定し、しばしば性能が置き去りにされる賃貸住宅の常識に対して真っ向から正論を打ち立てた勇気は大きな称賛に値する。また鹿児島大学の協力で改修前後の室内温度と電気使用量を測定し、そのデータを入居者募集時に提示するなど、不動産市場での物件情報提供のあり方にまで照準していることも特筆に値する。というのも、現在EU諸国の不動産市場では売買・賃貸ともに不動産広告に住宅エネルギー性能を表示することが義務化されていて、我が国でもそう遠くない将来に追随することが予想されるからだ。この作品は、日本の不動産市場をゆうに数年は先取りした先進的な取り組みなのだ。
この他にも、審査委員特別賞の性能向上リノベーション賞として、「最小限の予算で ★耐震適合★2世帯住宅」(株式会社まごころ本舗)、「再生匠家 -性能向上・自然素材リノベーションモデルハウス」(株式会社WOODYYLIFE)、「未来へつなぐ価値と暮らし-HOWS Renovation八雲の家」(株式会社リビタ)の3作品も選ばれた。いずれも各部門で最優秀賞を競った作品である。これら以外にも性能向上を実施した作品も多数あったが、授賞作品と惜しくも授賞に至らなかった作品を分けたポイントは、向上させた性能をきちんと数字または証明書で示しているかどうかである。ただ単に「耐震補強をした」、「断熱改修をした」と訴求するだけではなく、客観的な数値で示したことが信頼度を高めている。
かねてから主張しているように、耐震性能や省エネ性能の低さは既存ストックの弱点である。ところが性能向上リノベーションは、施主には比較的大きな予算を、設計施工の事業者には知識と技術力を要求する。そのためせっかくのリノベーションなのに性能が妥協されるケースが多々あることは否めない。しかしながらそのせいで、大地震においては生命・財産が危険にさらされ、夏は暑い・冬は寒いで住まい手の快適さや健康を損ね、かつ化石燃料を浪費する性能のままでは、既存ストックの活用が社会正義であると一点の曇りもなく主張することに若干の躊躇があったことは認めざるを得ない。
はからずも昨年末、2020年から新築住宅に予定されていた省エネルギー性能基準適合の義務化がまさかの見送りになった。5年の猶予期間を経て義務化が予告されていた平成25年基準は、実は平成11年基準と同レベルの断熱性能しか要求しておらず、国際的にみると決して次世代省エネ基準などとは呼べない低いレベルの基準だ。市場の混乱を避けることを理由とした国土交通省の最終判断は、それすら達成できない低モラルの事業者への救済措置の色合いが強い。これでまた日本の住宅のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は、欧米先進国から大きく立ち遅れることになる。
かように時代錯誤でぐだぐだの住宅市場に向けて、今回のリノベーション・オブ・ザ・イヤーは、リノベーション界からの異議申し立てのマニフェストになるだろう。
さてその一方で、忘れてはならないことがある。性能向上リノベーションは既存ストックの弱点を克服しハードウェアとしての価値を向上させるものの、リノベーションの自由な創造性や楽しさを約束するものではない。ひとつの住戸を対象とする500万円未満部門、1000万円未満部門、1000万円以上部門の各授賞作品では、リノベーションが得意とする自由な空間デザインが強調される形でバランスが図られた。
500万円未満部門の最優秀作品賞には、「我が家の遊び場、地下に根ざす」(株式会社ブルースタジオ)が選ばれた。500万円未満部門には家全体ではなく部分をリノベーションした作品がエントリーされることは珍しくないが、地下室のリノベーションは初めてだ。子供のためのライブラリーとシアタースペースがつくられた地下室への階段は、まるで秘密基地への入り口のようでもありワクワク感がある。有効に活用されていなかった地下の物置を第二のリビング・遊び場として発掘したアイデアは、まさに視点のリノベーションである。
1000万円未満クラス最優秀作品賞の「my dot. - 東京の中心で風呂に住む」(株式会社リビタ)は、47平米というコンパクトな住戸で1616サイズのユニットバスをバルコニー側に設置することでビューバスを実現した。洗面室にはチェアやミニ冷蔵庫を置くなど、バスタイムを楽しく彩るコツも心得ている。新築分譲マンションや再販マンションまた賃貸住宅のように供給者が計画した住空間を売る場合、専有面積が小さい住戸には小さいお風呂が置かれるプランが常識だが、考えてみればそれは不思議なことで、住まい手が風呂好きならば理不尽なことですらある。そんな住宅産業の常識に安易に従うことを拒否した、肌感覚で共感できる都市型ライフスタイルの提案は、リノベーションの真骨頂だろう。
激戦区の1000万円以上クラスを制した「5世代に渡り受け継がれる、築100年の古民家」(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)」は、築100年にもなる100坪の古民家を二世帯住宅へリノベーションした作品だ。二階の床を全て取り払うなど大規模な改修が施されているものの、黒光りする大黒柱や大梁に土間や建具など、建物の記憶を継承するエレメントが効果的に残されていて、あたかも100年前からこうであったような佇まいを見せる。5世代にも渡る家族の物語を見守ってきた建物には、毅然としつつも優しい先祖の姿が重なる。また100坪もの風格ある古民家ともなれば、もはや地域の風景と言っても過言ではないだろう。そのような建物が一つ、リノベーションによって次世代に受け継がれたことを喜びたい。
これら3つの部門の最優秀作品を並べてみると、5000万円未満部門の「我が家の遊び場、地下に根ざす」は夫婦と子供という核家族、1000万円未満部門の「my dot. - 東京の中心で風呂に住む」は単身もしくはカップル、1000万円以上部門の「5世代に渡り受け継がれる、築100年の古民家」」は二世帯・三世代の同居と、それぞれ日本の世帯類型、すなわち家族のあり方と住まい方に対応した作品であることに気づかれると思う。
「住むこと」は限りなく「暮らすこと」に近く、さらに「生きること」の大きな部分を占める。だから、どんな場所で誰とどう住むかで、その人の人生をあらかた語れてしまうと言っても過言ではない。これら3作品のプレゼンテーションに共通するのは、その空間だからこそ生まれる住まい手のアクティビティ、すなわち「住むこと」の内実がくっきりと強調されている点である。
「我が家の遊び場、地下に根ざす」では秘密基地のような地下空間で家族が思い思いに過ごす時間が、「my dot. - 東京の中心で風呂に住む」では疑いもなくバスタイムが、「5世代に渡り受け継がれる、築100年の古民家」では親戚や友人の家族が集まり子どもたちが遊ぶ姿を見守る団らんが、そうである。その時間こそが、それぞれの住まい手の人生を形成する「暮らし方」の個性であり、この家こそがどこか別の家では代替できない私のホームである、と住まい手に実感させる住まいの個性を物語っている。
かけがえのない一人一人の価値観や個性を映した住まい、その人らしいライフスタイルを実現する家。それは心あるリノベーション住宅が常に追い求めてきた基本テーマである。それを、空間の意匠性や表層のスタイル、プランニングのアイデアの斬新さで強調するのではなく、アクティビティによって提案したプレゼンテーションは、リノベーション住宅のコミュニケーションをアップデートする可能性を感じさせた。
さて、性能向上と住まいの個性の表現が2大テーマとなったリノベーション・オブ・ザ・イヤー2019年は、リノベーション住宅に健全な進化を促す大きな契機になるのではないかと予感している。グランプリの「鹿児島断熱賃貸〜エコリノベ実証実験プロジェクト〜」をはじめ今回の授賞作品群を選出できたことには、審査委員長として大きな手応えと満足を感じている。しかし同時に、逆に見えてきた課題もある。
1つは、グランプリの「鹿児島断熱賃貸〜エコリノベ実証実験プロジェクト〜」も無差別級最優秀作品の「戸建性能向上リノベ実証PJ」も、そのタイトルが示すように、まだ実証実験としてのプロジェクトである点であるため、現時点では手放しでの称賛は留保しておくべきだろう。今後、改修コストを考慮した上でも妥当な経済性を持つ商品として普及させることができるのかどうかが重要である。もう1つは、住まいの性能は必要条件ではあるが十分条件ではないということだ。性能向上をアピールする作品は、プレゼンテーションがハードの性能に終始してしまう傾向にあることは注意が必要だ。同様に、住まいの個性は重要であるものの、それだけではこれからの時代に求められる必要条件を満たしていないことも付言しておかなければならない。性能と個性。2020年以降のリノベーション市場に、この2つの価値を合理的な経済性でまとめ上げた新時代のリノベーション住宅が広がるかどうか。それが2019年のオブ・ザ・イヤーが、後世に語り継がれる真にエポックメイキングなアワードとなるかどうかの分かれ目であるし、またオブ・ザ・イヤー受賞者の真価が問われるところでもある。
一般社団法人リノベーション協議会について
消費者が安心して既存住宅を選べる市場をつくり、既存住宅の流通を活性化させることを目的に、2009 年7 月に発足したリノベーション業界団体です。
現在、業界・業種の枠を超えた971 社(正会員714社、賛助会員241社、特別会員4名・9法人・3自治体)が参画し、優良なリノベーションの統一規格「適合リノベーション住宅」を定め、建物タイプ別に品質基準を設定、普及浸透を推進しています。
区分所有マンション専有部に関する品質基準を満たす「R1住宅(アールワンジュウタク)」、区分所有マンション共用部も含む品質基準「R3住宅(アールスリージュウタク)」、戸建住宅の品質基準「R5住宅(アールファイブジュウタク)」が運用されており、適合リノベーション住宅発行件数は、累計48,004件(2019年12月10日現在)。
https://www.renovation.or.jp/